[English]
Prologue
ちあきチャンにカメラを向けると、はにかんだ笑顔でピースした。
その微笑が、どこか印象的で、「種花」サイトの顔として、
使わせて頂いている。
桜が咲いたらね、学校に行くの。
「でも、まだ行かない……」
ちあきチャンと最初にかわした言葉だ。
4月24日。宮城にも、桜の満開が近づこうとしていた頃の話である。
宮城県東松島市野蒜町。
この町の指定避難所は野蒜小学校だった。
しかし、学校は海抜3から5メートルと低いため、
津波の被害に遭った。
避難した、多くの住民が亡くなったという。
小学校は現在、自衛隊の前線基地として使われている。
ちあきチャンは、いつも独りで遊んでいるという。
避難所となっている、寺の裏山を駆け上がる遊びや、
地震でひび割れたアスファルトを剥がして、
蟻ン子を探す遊びなどを、教えてくれた。
彼女が「カメラ貸して」といって、避難所に咲く「花」の撮影会が始まった。
花ごと散った牡丹を集めて、その内いちばんキレイな二つを撮った。こぼれた薔薇の花弁も、桜の木も、鉢植えの花まで何でも撮った。
ひとしきり撮り終えると、避難所の玄関に案内してくれた。
「津波が来てね、これで逃げたの」
ちあきチャンは、踵が履き潰された靴を指していった。彼女には、少し大き過ぎる靴。
事もなげに言っていたが、さぞや怖かったに違いない。
それから5足、自分の靴を教えてくれた。
全て、頂きものだという。
それでも、エナメル地の黒い靴はお気に入りで、
その靴に履き替えて、自慢気に見せてくれた。
ちあきチャンは、もう学校に通っているだろうか。
先日、避難所から届いた写真の中に、
お出かけする、彼女の姿があった。
次に会える時は、学校の友だちの話を、
たくさん聞かせてくれるかも知れない。