宮城のワカメを支援していると言うと、必ずと言って良いほど、
「放射能汚染は大丈夫?」と、訊かれる……。
東松島ワカメを、地元の新たな名産にして、復興の第一歩を踏み出したい。
そんなプロジェクトが始まったのは、昨年末のことである。
まだ、津波で海没した土地の、買取価格さえ決まっていない時期だった。
夏をピークに、支援の波が次第に沈下を始め、
地元でも、自治による復興への意欲が高まり始めていた頃、
ワカメの種付けも、始まっていた。
最初は、津波で破壊された瓦礫等を撤去することから、始まった。
マイナスからの、スタートである。
そして、ようやくワカメの収穫を迎えた時期、彼らを悩ませたのが、
放射能海洋汚染であった。
東松島の献上海苔を凌駕するワカメの生産をしたい。
地元の思いは、ひとつだった。
しかし、県外の「放射能に汚染されたであろう瓦礫受け入れ」問題で、
様々な地域において、反対の声が高まった。
これによって、周囲の放射能汚染への危機感が、更に高まる結果となった。
この逆風の中、東松島のワカメは収穫を迎え、出荷の準備を始めていた。
漁師の尾形さん、プロジェクトの宮澤さんたちは、
真摯に、首都圏での放射能への反応を受け入れ、
出荷時期を過ぎても尚、ワカメ放射能検査の結果を待った。
実際、そうした検査を受けずに、市場に出回った海産物も、
少なからずあったであろう。
それでも、尾形さんも宮澤さんも、より良いワカメを届けたい一心で、
検査の結果を、待ち続けた。
そして、地元漁協から、ワカメの放射性物質の検査結果が、送られて来た。
結果は放射性ヨウ素(I-131)、セシウム(CS-134,CS-137)、カリウム40(K-40)全て、
不検出という結果となった。
しかし、「これでは信用に足る結果ではない」と、宮澤さんは判断した。
検査結果表には、放射性物質の測定下限値、測定方法、
測定機器が明記されていないダケでなく、
測定後に問い合わせても、明確な回答が得られなかった。
そこで、プロジェクトは、新たにつくばにある民間研究所に、
検査を依頼する手段を取った。
何より、消費者の安心安全と、東松島の名誉にかけた対応である。
結果は、信用たる方法で検査され、汚染の心配も無いことが判った。
しかし、その後、宮澤さんより、下記のメールが届いた。
出品を目標としていた2月初旬から、三週間近く遅れた頃のものである。
「今年のワカメは、少々色落ちし始めて来たため、自信を持って出せる
ワカメに限りが 在るようです
サンプル的に少し配ったりするのは良いかも知れませんが、
正直来年に期待を寄せるしか無いと思われます
製品を作るにも良質のワカメが無いと無理なので、
試作用とかに使ったり来年の構想を皆さんで練りましょう」
漁師の尾形さんは、目先の利益よりも、
天皇献上品を納めていた生産者としての、誇りを選んだ。
つまり、今年は尾形さんが納得のいくワカメの生産が少ないため、
メガネに叶わなかったワカメは、試供品や商品開発の材料にしようと、
判断したのである。
放射能検査が、少しでも早く終わっていれば。
ワカメの鮮度が保たれていれば、
少しは、今年の収入が見込めたかも知れない。
喉から手が出る程の生活費を見送って、来年に賭ける決意を固めたのだった。
当然、民間機関に、検査の依頼を出せば、検査費用が掛かる。
更に、放射能の安全を確かめる為の時間が経過した為、
鮮度の落ちたワカメは、商品にはならない。
プロジェクト・リーダーの宮澤さんは、東京電力への、賠償について、
問い合わせをした。
「昨日東京電力に、通常行わなくて良い検査、放射能検査をしないと
御客様が信用してくれない
それに関わる費用を東電の何処に請求書送れば良いですか
に対しての返答が来ました
思ったより対応の早いことに驚きましたが、次の対応はどうなるか
電話をしてみるつもりです
県にメールした時は1か月以上たって返答が来たのに対しては
早かったです」
宮澤さんは、こう前置きして、以下のメールを転送してきた。
※東電回答、全文掲載。
「弊社の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における
事故により、 発電所の周辺地域の皆さまをはじめ、広く社会の皆さまに
大変なご心配とご迷惑をおかけし、心より深くお詫び申し上げます。
当社といたしましては、原子力損害賠償支援機構法を含む原子力損害賠償
制度の枠組みの下で、原子力損害賠償紛争審査会の
「東京電力㈱福島第一、 第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲
の判定等に関する中間指針 (以下 中間指針という)」を踏まえ、現在確定
できる損害に対して公正かつ迅速にお支払いをさせていただくための基準を
平成23年8月30日にプレスリリース※、平成23年9月より本格的な賠償を
はじめさせていただきました。
賠償に関しましては、福島原子力補償相談室0120-926-404
(受付9:00~21:00)までお問いあわせください。
〈参考〉
※弊社ホームページ上に主な損害項目における補償基準の概要について
プレスリリースされております。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11083005-j.html
——————————————————-
東京電力株式会社
福島原子力補償相談室(コールセンター)
電話:0120-926-404
——————————————————-」
結果として、東京電力曰く、今回の賠償は福島県内に向けてのもので、
宮城県のワカメは対象外という回答を寄越した。
「今日、尾形さまに聞いた所によると
宮城は福島なら被災ちとして認められるが宮城は含まれていない
でも、書類は送りますという話を聞きました
この話では、東電は福島は面倒見ますが、その他の地域は関係ないでも
書類は送りますみたいな話に成っております
どうか、弁護出来る方長い目で之を支援してくれる方
この話に意義唱えましょう
弁護士や司法書士の皆さま、一歩前に出ましょう!!」
上記の問題については、早急な回答は出ないであろう。
しかし、復興への足取りを止めるワケには行かない。
日々、生活する上で、手持ちの現金は消費され、
収入なしには、生きていられない現状が眼前にある。
プロジェクトは、賠償問題に取り組みながらも、
東松島に、新たな名産品を作るための歩みを止めることはなかった。
それは、宮澤さんが「東松島にはB級グルメがない」
そんな提案から、動き始めたプロジェクトであった。(つづく)
※次回は、東松島の一風変わった名産づくりについて